【書評レビュー】「世界地図の下書き」朝井リョウ あらすじと感想

小説すばる新人賞受賞作「桐島、部活やめるってよ」でデビューした朝井リョウさんの二作目、「世界地図の下書き」について紹介します。

あらすじ

両親を事故で亡くした太輔は児童養護施設「青葉おひさま園」で暮らし始めた。そこにはすでに同い年の淳也、淳也の妹の麻利、一つ下の美保子、そして6歳年上の佐緒里の4人が暮らしていた。みなそれぞれ家庭の事情を抱えてこの施設にやってきている。学校でも微妙な立場になっていて日々悩みは尽きない。
それでも暮らしていくうちにお互いが掛けがえのない存在となっていく。物語は出会ってから打ち解けるまでの日々と、その3年後、高校卒業と同時に施設を出ることになった佐緒里のために「ランタン飛ばし」を復活させるまでが描かれる。
大学目指して勉強していた佐緒里は弟のためにそれをあきらめることになった。淳也と麻利はそれぞれ学校でいじめを受けているため、新しい学校に転校することに。美保子は母親とうまくやっていくために、再婚相手と三人で暮らすことを選ぶ。それでも佐緒里に見せるため、イベントを復活させるためのランタンづくり4人で実現することで離れてもつらいことがあっても、そばに寄り添ってくれる仲間たちにまた会えるはずだと心に思うのであった。

感想

前半の子供たちの苦悩と、後半のランタンづくりにかける子供たちの前向きな姿勢の対比がとてもクリアに表現されていてまぶしく感じました。こういう話だと児童養護施設に入ることが施設に入る前のつらい日常から解放されるきっかけとなり、明るく描かかれがちかなと思っていましたが、実際は子供たちはどこの立場に置かれても周りからの嫌がらせを受けたりします。

太輔も施設に入る前に伯母さん夫妻のところでお世話になっていたましたが、施設に入る大きな理由は実は伯父さんとうまくいかなかったことが大きいのです。

伯父さんと離婚した(?)伯母さんは太輔を伯父さん代わりに引き取ろうと自分勝手だし、麻利や美保子もそれぞれつらい思いをする場面が多く描かれています。

現実はこういうつらい日常も多いし、でもそれを越えて世界に飛び出していくための、大切な人との出会いや経験を積んでいくこの時が、世界地図の下書きを指しているのではないかと深く感じました。

この本の印象的だった場面

やはり麻利が大好きな朱里ちゃんとのかかわりの場面はとても印象に残りました。子供心に素直な表現が、時に誤解を生み、周りから奇異な目でみられて攻撃を受けてしまう、そういう事実に、もし私自身がこのような場面に遭遇したら、大人としてどうやってふるまうべきか、自問自答してしまいました。正しい答えは見つかりませんでした。

この本をお勧めしたい人

子供たちが経験する出会いとそれが与える成長は、いつ何時も人の心に影響を与えるものだと思います。子育てに悩む人だけでなく、集団生活の中で、違和感やつらい思いを感じている人、そういう経験があった人にはぜひ読んでほしいと思いました。

文章自体が難しい表現は少なく、また、過激な場面などもないので、小学生のお子さんにもぜひ読んでほしいと思いますし、親子で場面場面について話し合ってほしいと感じました。

まとめ

朝井リョウさんの「世界地図の下書き」を読み、あらすじと感想を紹介しました。内容は難しい部分もありますが、文章がとても分かりやすくなめらかな表現なので、小中学生へのお勧め図書として紹介されたり、中学入試の題材として採用されることも納得できました。

この記事で興味を持たれましたら、ぜひ手にとって読んでいただれば幸いです。

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