Last Updated on 2024年5月16日 by らくろぐ
中学生の心情描写を駅伝に乗せて描いた作品、瀬尾まいこさん著「あと少し、もう少し」について紹介します。
Contents
「あと少し、もう少し」簡単なあらすじ
中学校駅伝に毎年参加している桝井日向は中学3年生。母校は毎年この大会で6位入賞し、県大会に進んでいる。自分たちも当然それを目指して厳しい練習に励んでいたが、顧問の先生は移動してしまい、新しい顧問は頼りない美術教師。長距離を走れる部員は3人しかいないため、日向たちが集めた助っ人3名と合わせて6名で当日参加することになった。
物語は、駅伝当日、1区を走る設楽の目線でチームの人間模様を描かれるところから始まる。そして、2区、3区とタスキがわたっていくのと同時に、物語の語りはその区を走る選手達へと移っていくのだった。チームの絶対的支柱であり陸上部の部長でもある日向が周りを励ましながら、自身の不調とも向き合っていく。果たして駅伝大会は6位までに入賞できるのか?
「あと少し、もう少し」を読んでの感想
帯に宮崎あおいさんの「なんだか涙がでてくる」という感想、ほんとうにその通りでした。タスキをつなぐその場面は、タスキを届ける選手とタスキを待っている選手それぞれの目線で描かれるので、お互いの心情を読みっていくうちに、自然と胸が熱くなるのが解りました。
タイトルの、「あと少し、もう少し」という言葉はあと少しでタスキを渡せる、もう少しでタスキを受けとれるという、選手のはやる気持ちを表現しているのでしょう。
読み進んでいると、私自身もあと少しで次の区間へ、またその次の区間へとどんどんと引き込まれて行き、一気に読み終えてしまいました。
主な登場人物
この本は各章が順に区間を担当する生徒の目線で語られて行きます。一つのエピソードを二つの目線で語ることで違った考え方を読みとることができるでしょう。
桝井日向(ますい ひなた)
この物語の主人公。全校生徒が150人ほどの市野中学に通う陸上部3年生(部長)。1年生のときから駅伝を走り県大会に出場してきました。
最後の年(3年生)に上位に入り県大会へ出場したいと考えているが、顧問の移動、そして体の不調でスランプをになっているが、そのことを隠しています。
設楽亀吉(したら かめきち)
日向と同じ小学校出身で市野中学3年生。
小学校6年生のときに急遽走った駅伝大会での活躍し、日向に誘われて、中学で一緒に陸上部に入ります。日向の相棒。理解者です。
大田(おおた)
日向・設楽と同じ小学校出身の市野中学3年生。見た目はヤンチャを装っているが、実際は自分には出来そうにないと感じると、カッコ悪くなる自分を隠すために、それが表に出る前に逃げ出すことをずっと続けてきました。
髪は金色に染め、学ランにはタバコの匂い。授業もさぼり気味。周りからは避けられてる大田の走力を、日向は必要としていました。
きつい練習のその先の景色を大田は見ることができるのでしょうか。
仲田真二郎 (なかた しんじろう)※ジロー
市野中学のバスケ部部長の3年生。生徒会の書記も務めていて、周りからはジローとの愛称。「頼まれたら断るな」という母親の教えを守り、小学生の頃からいろいろと人にものを頼まれてしまうことが多く断り切れないジローです。
駅伝メンバーが足りないことを受け、断り切れず参加しますが、以前から苦手だった吹奏楽部の渡部も参加するとわかり、動揺しています。
渡部孝一(わたべ こういち)
市野中学吹奏楽部の3年生。
本当は世話好きな一面を持つが、人との距離感が近いのを避けているため、ついつい他人とは疎遠がち。複雑な家庭環境(祖母と2人暮らし)なのも学校では知られないようにしています。
陸上部メンバーに説得されて駅伝に参加することになり、そこからこれまでの周りとのかかわり方が少しづつ変わっていくようになります。
俊介(しゅんすけ)
陸上部唯一の2年生。興味なかった陸上部をたまたま見学に行って、1学年上の日向の走りに心をわしづかみにされます。
その後、陸上部に入部すると、2年生ながら、日向を支える影の力持ち。日向への思いが甘く切ない表現で描写されて行きます。
上原先生(うえはらせんせい)
20代後半の女性の美術教師。全く門外漢の陸上部の顧問になってしまい、生徒たちの期待に応えられないもどかしさを抱えます。でも、子供たちの成長を支え、そして自分自身も初めての陸上部顧問を他の先生の協力を得ながら成長していきます。
「あと少し、もう少し」という本の印象に残った場面、特に面白かったポイント
物語の章だてが、6名の選手それぞれ担当する区でわけられており、2区、3区と走る選手が変わるたびに、物語の主人公が入れ替わる構成がとても斬新。タスキを渡すことによってその前後の選手が同じ場面、同じエピソードを別の視点から表現しているので、繰り返えされる場面をよむことで理解が深まっていくことができます。
顧問や周りの先生たちが生徒(部員)へかける言葉も、同じ言葉でも子供たちにとってのとらえ方は様々で、正解は一つではないのだと気づかされました。
私自身のお気に入りは、最初はヤンキーの大田くんでしたが、後半に連れて渡部くんの気づかれない努力、そしてそれを見越している上原先生とのやり取りは魅力を感じました。
渡部くん、なんでも冷静沈着にこなしてしまうのは、他とは違わないと思われるように陰で努力している姿は中学生特有の感情なことをこの物語で教えてくれました。
「あと少し、もう少し」という本をおススメしたい人
小学生高学年から中学生そして、それくらいのお子さんを持つお父さん、お母さんにも読んでほしいです。特に親子で読んでみてお互いに感想を話し合ってみることをお勧めします。
なぜなら、子供目線で描写されてる場面がとても素晴らしく、思春期の子供たちの胸の内が少し理解できるように感じるからです。
是非、手に取ってご覧ください。
瀬尾まいこさんのあわせて読みたい本
瀬尾まいこさん作の本では他にも素晴らしい作品がたくさんあります。中でも石原里美さん、永野芽衣さん出演の「そして、バトンは渡された」はおススメです。
是非こちらも読んでみてください。