【書評レビュー】「きみの友だち」重松清 あらすじと感想

Last Updated on 2023年6月27日 by らくろぐ

重松清さんの「きみの友だち」。小中学生のまぶしい学校生活と子供の持つ危うさを描いた作品について、あらすじと感想を紹介します。

あらすじ

小学生の時、交通事故で足が不自由になった恵美ちゃん。それまで明るかった彼女の性格は一変した。事故は「みんな」のせい。最初は「みんな」も責任を感じていた。でもそのうち「みんな」の中で恵美ちゃんは変わった子になった。クラスメイトの由香ちゃんは生まれつき体が弱い。学校に来ても運動も遊びもできない。だからいつも一人。事故の後、学校の長縄跳び大会の回し手に二人は選ばれた。飛ぶことができない二人。お調子者の堀田ちゃんは長縄跳びが苦手。クラスに迷惑かけてしまう。飛べない堀田ちゃんがクラスの「みんな」に許してもらうため、回し手の二人の「せい」にすることで仲間外れから戻ることができた。
「みんな」の中にいるために、二人ははじき出されることを経験する。二人はそれから二人だけの友だちになった。体が弱くいつもどんくさい由香。それをイライラしながらみてる恵美。でも二人の関係性は唯一無二のものになっていく。
恵美の弟ブンちゃんはなんでもできるクラスのスーパースター。そこに転校生のトモくんがやってきた。ブンちゃんの立場は微妙に変わってくる。トモくんは自分よりすごい。でも気に入らない。二人は二人で決着をつける。
恵美と由香のまわりには「みんな」がいる。「みんな」はそれぞれ自分のグループでうまくやりたい。はじかれると他の「みんな」のところにいく。でも恵美と由香は交わらない。「みんな」は友達は自分のものと思っているから。
恵美と由香を中心に、その周りの人々の友だちとの関係性を丁寧に描いた作品です。短編小説が10編で個々の話はつながっているわけではありません。ただ、全編通して、登場人物は恵美と彼女に(少しでも)関係のある人がそれぞれのエピソードのメインとなって物語は進んでいきます。恵美がどのようにそれぞれとかかわってるのか、どうしてこのような構成の話になっているのかは、最終話の「きみの友だち」エピソードで回収されるという作品です。

感想

読む前に、タイトルと表紙デザインで松葉づえの女の子とその友達の友情ものだと思い込んでいました。しかし、読み始めていくと、恵美は(主人公にするには)とっても難しい子だし、まわりの子供たちも小学生ながら言葉の刃を持っている。恵美と由香が友達になるまでのエピソードも子供たちの残酷な場面に心を痛みました。

さらに、次のエピソードは恵美でなく弟のブンちゃんの話。次は堀田ちゃんの話。恵美の青春感動エピソードは一向に出てこないのです。

しかも、それぞれの話のメインの登場人物はみな自己中心的な子供たち。自分を守るため、正当化するために時には他人を平気で傷つけるようなことをするのです。

友だちなのは誰?友だちになれない人の話なの?あふれ出る疑問に押されるように一気に読み進めてしまいました。

バラバラのそれぞれのエピソードは実はそれはすべてつながっていて、恵美と由香を中心に、その周りの人々の友だちとの関係性を丁寧に描いた作品だったです。同じ登場人物が小学生と中学生時代を描くことで個人の心の成長をきめ細やかに表現しています。同じ場面で違う見方をする表現も複数の考え方を気づかせてくれました。

そしてなによりも、自分を守るために、気づかずに人を傷つけることが、幼い自分にもあったのだろうか、と自問自答させられました。

純粋な子供が行う残酷な言葉と行為。その場面場面で心が痛みました。由香との出会いと別れを経験した恵美が、友だちとはだれのものでもない、人と比べることなく自分自身を生きていけばよいと答えを見つける姿は心が洗われました。

この本の印象的だったところ

この本は恵美でも由香でもない誰かが(僕)語り部となって物語は進んでいきます。その誰かは最後ににわかるのですが、エピソードごとにかわる「きみ」に対して「僕」は時には自分と重ねて、時には優しく冷静に語り掛けます。

「友だち」も話によって恵美だったり、由香だったり、ぶんちゃんだったり。

きみによって変わる「友だち」それは描くきみによって個性も見え方も変わります。きっと自分の友だちという見方が、自分にとって「都合よく」描かれたりそして時には「傷つけたり」してしまうのだと痛感しました。

最後に登場する「僕」。あんな心を開かなかった恵美が「僕」との信頼関係でこの本が生まれていくという展開は予想外ですが、だから一つ一つのエピソードが丁寧に描かれているのだと実感しました。

この本をお勧めしたい人

友だち関係の危うさ難しさを丁寧に描いたこの作品。同じような年代のお子さんを持つ方にぜひ親子んで読んでほしいと思いました。

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